第23章 喧嘩のとある日 ☆
「あれ?萩原さん」
「…え、新出くん!」
声のした方を見ると、新出くんがいた。
「どうしたの?ひとりで」
「新出くんこそ…」
「この近くでセミナーがあって、その帰りに映画でも観て帰ろうかなと思ってね。
せっかくの休日だし、観たかった映画が最終日だったから。
でも、今見たら満席らしいから諦めて帰るところ。」
そう言って笑う新出くん。
観たかった映画が最終日ってことは、わたしが取ったチケットと同じだ。
「…あるよ。席」
「え?」
「わたし、チケット2枚持ってるの。
もし時間あるなら一緒に観ようよ」
「いいのか?」
「うん。無駄にするところだったし、使ってくれた方が助かる。」
その時、ちょうどシアターへの入場が開始されたというアナウンスが入った。
「あ。ほら、もう開いたから行こ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
陣平くんのチケットをどうにか無駄にせずに済んだわたしは、そのまま新出くんと並んでシアターに向かった。
映画の内容は、正直思ってた内容とは違っていて、面白さは個人的に50/100点って感じだ。
大好きな医療ドラマの映画版だからものすごく期待していて、何なら全然乗り気じゃなかった陣平くんを無理やり誘ったのに。
こんなことなら、映画なんか観ずに陣平くんの家に一緒に居ればよかったな…
今頃、陣平くんは家でゴロゴロしてるのかな。
帰ったら電話をかけて謝ろう。
なんなら明日は授業だけど、陣平くんのところに謝りに行ってそのまま泊まろうかな。
…でも、あの発言だけは許せない。
ちょっとは千速を見習って大人になれよ。
イラついた様子でそう言った陣平くん。
陣平くんがお姉ちゃんを好きだったこと、知っているからこそ、余計に惨めになる。
大人になれれば、陣平くんに追いかけてもらえるような女の子になれるの?
陣平くんの口から、千速みたいになれ。なんて、一生聞きたくなかった。
わたしのことを、好きだって言ってくれたくせに。
そうやって、映画を観ているくせに頭の中はずっと陣平くんでいっぱいだった。
良いことも、悪いことも、全部陣平くん。