第23章 喧嘩のとある日 ☆
「俺の分のチケットは金払うから。
そんなに観たきゃ一人で観れば?」
「じ、陣平くんのバカ!!!!!!!」
思わず大きい声で怒鳴りつけたわたしは、そこにあったクッションを陣平くんに投げつけた。
ボスッと陣平くんの顔に命中したそれ。
彼は頭を押さえながらイラついた様子で言う。
「…っいて…。お前なあ、ちょっとはそのワガママなおせよ。
千速みたいに大人になれって」
その一言に、わたしの頭からぷつんと音がしたのを確かに聞いた。
お姉ちゃんみたいに大人になれって…
それ、わたしに一番言っちゃいけないことだからね?!!
日頃から、大人っぽくて美しい姉に少なからずコンプレックスを感じていたわたし。
しかも、陣平くんの初恋はわたしのお姉ちゃんだ。
そのお姉ちゃんを見習えって言った!?この男!!
「は、はぁあ?!
なにそれ!わがままいってるのは陣平くんじゃん!
約束してたのに!チケットだって買ってるのに!
陣平くんだって、ちょっとは新出くん見習って優しくしてよ!」
怒りに任せてそう怒鳴るわたし。
新出くんという禁句ワードを出したことに、陣平くんも眉をピクリと動かした。
そして、わたしをじろ…と睨みながらも布団からは出ようとせず、なんならさらに機嫌を損ねてしまったらしい。
「見習えるほど俺はあいつのこと知らねぇ。」
不機嫌MAXの様子でそう言った陣平くんは、またベッドの中に潜り込むとわたしに背を向けて無理矢理二度寝を始める。
これはもう何を言っても今日一緒に仲良く映画デートする未来は潰えた。
「…もういい!知らない!
陣平くんのバカ!」
そんな捨て台詞を吐いて、わたしは陣平くんのアパートから飛び出した。
「バカで結構」
そう言って眠りに落ちる陣平くんの声が、ドアが閉まる瞬間に聞こえた気がした。