第3章 死ぬということ
初めて抱きしめられた陣平くんの腕の中は、ほんのりタバコの匂いがする。
お兄ちゃんと同じタバコの匂い。
力強くて、心地よくて、泣けてくる。
夢にまで見た陣平くんの腕の中。
今、たしかにここにいるのに、一つも喜べないよ。
「行かないで欲しい…
お兄ちゃんの幽霊なら、怖くない」
「未来のお医者様が、そんな非科学的なこと言うなよ」
陣平くんがハハッと笑いながら身体を離すと、わたしの髪を撫でた。
あの頃、よくしてくれた、クシャクシャと撫でる癖。
今でも変わらないこの愛しい手。
「俺が、ずっと隣にいてやるから。
萩に言えなかったこと、ちゃんと伝えてやれ」
陣平くんはそう言って、わたしの右手を握った。
そして手を繋いだまま、葬儀場の本堂に戻り、それから葬儀が終わるまでわたしの手をずっと握ってくれてた。
読経が終わり、最後にお兄ちゃんの棺に花や車のキーや好きだったお菓子を入れた。
「ミコト。ちゃんと、萩に言ってやれ」
陣平くんに肩を抱かれながら、わたしは涙をボロボロと流しながら、お兄ちゃんに言った。
「お…にいちゃん…
っ…大好き…
言えなくて、ごめんなさい…」
ゆっくりと棺の蓋が閉まる瞬間、お兄ちゃんの声が聞こえた気がした。
「諦めんなよ。陣平ちゃんのこと」
そう、言った気がした。