第3章 死ぬということ
半袖の喪服は、11月には寒く
長袖の喪服は少し暑かった。
兄の葬儀の日は、兄にぴったりな秋晴れで、わたしは寒いと思いながらも姉に半袖の喪服を着せられた。
2日前に兄が亡くなってから、水しか飲んでない。
食事は喉を通らず、無理に食べようとしたら全部吐いた。
葬儀場となったお寺には線香の匂いが充満していて、わたしは思わず顔を背け、中庭を見渡せる縁側に腰掛けた。
柱にもたれて、ボーッと外を見た。
お兄ちゃん…
もう一度だけ、わたしの名前呼んでよ…
もう一度だけ、わたしの髪を撫でて…
わたしは、お兄ちゃんのこと、自慢に思ってるんだよって言えてない。
大好きも、愛してるも、何一つ伝えられないまま。
どうしてあの夜、言ってあげられなかったんだろう。
お兄ちゃんは何度もわたしに愛を伝えてくれてたのに、わたしは一度も。
相変わらず止まることを知らない涙が、瞬きをした瞬間両目からこぼれた。
屍みたいに、ただ目線だけ動かしてぼーっと中庭を見ていると、隣に誰かが座った。
「ミコト」
声を聞いただけで、誰だかわかる。
陣平くんが、タバコを吸いながらわたしの名前を呼んだ。
「飯、なんも食ってねぇんだろ?
千速から聞いた」
「…食べる気になれない」
「ミコト。今日で最後なんだ。
萩と、ちゃんとサヨナラしてやれ」
「…サヨナラなんて言いたくない」
そう言うとまたボロボロと涙が溢れた。
ここ二日間、四六時中泣いていて、涙でわたしの顔はもうボロボロ。
擦りすぎて赤くなった目を、陣平くんの指が触れた。
「お前がこんなに泣いてばっかだと、萩は安心して天国に行けねぇよ」
そう言いながら、陣平くんはわたしの手を取り引いて、腕の中に閉じ込めた。