第3章 死ぬということ
「ミコト。お前は俺の世界で一番可愛い妹だからな」
あの夜、久しぶりにお兄ちゃんと同じベッドで眠った夜
そう言ったお兄ちゃんの声が頭に残ってる。
「嘘だ…」
ポツリとこぼしたわたしの肩を、お姉ちゃんが抱いた。
「ミコト…」
抱きしめてくれる姉の服を掴みながら、わたしの叫び声にも似た泣き声が、部屋中に響き渡る。
「もう会えないなんて…嘘だよ!
やだ!お兄ちゃん!!
いやぁあ!!」
ドンドンとお姉ちゃんの身体を叩きながら、泣き喚くわたしを、お姉ちゃんはただそれを受け止めて髪を撫でる。
「私だって、嫌だよ」
そう溢した姉の涙を、わたしはこの時初めて見た。
19年間一度も見たことなかった姉の涙を、初めて。
2人でたくさん泣いて、泣いて、なのに涙は枯れなくて、一生分の涙をここで溢したような気がした。
その時
霊安室の扉がガラッと開いた。
姉の胸に顔を埋めてたわたしは、誰が来たのかわからなかったけど、その人を見た姉が名前呼んだ。
「陣平」
「…萩原…」
陣平くんのこんな声、初めて聞いた。
コツ…コツ…と陣平くんの足音が近づいてくる。
そして、ベッドの前で止まった。
「…何やってんだよ…萩原ァ」
絞り出すようにそれだけ言って、何も話さなくなった。
陣平くんの泣いてる顔を見たくなかった。
お兄ちゃんがいなくなった現実が、より明白になりそうだったから、わたしはお姉ちゃんの胸に顔を埋めたまま、ひたすら泣いた。
この日
わたしはこの世で1番親しい人を亡くした。