第3章 死ぬということ
病院の前では、お姉ちゃんがわたしを待っている。
「お姉ちゃん…」
姉の表情が、今までに見たことないぐらい悲痛な顔で、思わずその場から逃げ出したくなる衝動に駆られる。
「行こう。ミコト…」
「…」
お姉ちゃんに手を引かれ、わたしは鉛のように重くなった足を一歩、また一歩と前に進めていく。
薄暗い地下にある、一つの部屋の前でお姉ちゃんは足を止めた。
霊安室と書かれたその場所は、いつも明るく笑っていた兄にはとても似つかわない。
お兄ちゃんが、こんな場所にいるはずない。
何度もそう思いながら、わたしは姉に手を引かれて、中に入った。
顔に布を被せられ、ベッドに横たわる
この人は一体誰なんだろう。
「研二。お前の大好きなミコトが来てくれたぞ。」
その人に向かって、お姉ちゃんはそう言うけど
嘘だ。
そんなはずない。
お兄ちゃんなわけないじゃん…
顔にかかった布に震える手をかけようとした時、姉がそれを止めた。
「ミコトには、男前な俺を覚えていて欲しいって、研二は思ってるはずだ」
「…お姉ちゃん、おかしいよ。
何言ってるの?
お兄ちゃんが、そんな…死ぬはずない…
そうでしょ?!
きっと今もどこかで車運転して…
この人は、お兄ちゃんじゃないよ!」
そう言いながら、もう一度ベッドに横たわる人を見た。
その人の足には、赤と白の紐で編まれたミサンガが結ばれていた。
そのミサンガには見覚えがあった。
わたしが、昔お兄ちゃんにあげたものだから。
腕につけてるの見たことないから、
気に入らなくて付けてないんだと勝手に思ってたけど…
「なんで…」
足につけてるのなら、そう言ってよ…
「なんで、今…」
無情にも、わたしがあげたプレゼントが、兄の死を証明する物体証拠になり、わたしはその場でしゃがみ込んだ。