第3章 死ぬということ
それから数ヶ月が経ったある日、
わたしは大学の授業が終わって、友達と映画を見るためにショッピングモールにいた。
それは、あまりにも突然だった。
「え…お姉ちゃん…今なんて?」
映画館に入る直前、珍しくお姉ちゃんから電話がかかってきた。
そして、電話越しに姉が放った衝撃の一言に、わたしは思わず聞こえなかったふりをして聞き返すと、全く同じ一言がまたリピートされるみたいに返ってきた。
「…研二が、殉職した」
殉職…?
お兄ちゃんが…?
まさか、そんなはずない。
何言ってるの?お姉ちゃん…
頭では信じてないのに、身体が勝手に震えてきた。
「…嘘だよね?」
一縷の望みを託して、姉が悪い冗談を言ってるんだと思おうとした。
けれど、姉がそんな嘘を言うはずもなく
「…東都警察病院。今から来て」
それだけ言って、電話が切れた。
震える足でタクシーを捕まえ、東都警察病院という名前をすんなり言えたのは、きっとまだ実感がないから。
お兄ちゃんが、この世にいないなんて嘘でしょ?
きっと別人だ。
萩原なんて、よくある名前だし。
あのお兄ちゃんが簡単に死ぬはずないもん。
震える手をぐっと握り、タクシーから見える景色を楽しむ余裕もないまま、わたしの身体は20分で東都警察病院に運ばれた。