第3章 死ぬということ
お風呂から出ると髪を乾かし、お兄ちゃんのダブルベッドに2人並んだ。
「こんな風にお前と一緒のベッドで眠るの、いつぶりだろうな」
「さぁー。小学生の頃ですらしなかったよ。
幼稚園の時以来じゃない?」
「もうそんなになるか…
ミコトも、もう大学生だもんな。
しかも、東都大医学部。
にいちゃん、鼻が高いよ」
「医学部出ても医者になれるとは限らないよ。
正直解剖とか全然やりたくないし、途中で向いてないって思うかもね」
あははと笑いながら寝返りを打つと、お兄ちゃんのいつに無く真剣な瞳と目が合う。
「医学部に合格できるほど努力したお前なら、1番欲しいものも手に入れられるはずだ。」
「1番、ほしいもの…」
「諦めんなよ。陣平ちゃんのこと」
そう言いながら、お兄ちゃんはわたしの髪を撫でた。
「…陣平くんは、わたしなんて興味ないよ」
「わたしなんてとか言うなよ。
お前は、俺にとって世界で一番可愛い妹だ」
お兄ちゃんだって、世界で一番自慢の兄だよ
そう言えばよかったのに、わたしは思わずぷいっとそっぽを向いた。
「可愛いとか、シスコンっぽいからやめてよね」
何気なく選択したこの二択
わたしはちゃんと、正しい方を選択すべきだった。
お兄ちゃんのこと自慢だよって言うべきだった。
この時のわたしは少しも思ってなかった。
この、素直になれなかった結果が、後になって一生後悔することになるということ。
この日が、お兄ちゃんと同じベッドで眠った最後の夜になった。