第20章 兄が愛した人 ☆
陣平くんがトイレに行くのを渋々見送った。
わたしは、陣平くんがいなくなることに敏感過ぎるんだろうか。
その点、お兄ちゃんの彼女は凛としていて強くてしなやかな女性という感じだった。
さすが、お兄ちゃんが選んだだけのことはある。
だったら尚更、生きてお兄ちゃんの手で幸せにしてあげて欲しかった。
あの人の隣で微笑むお兄ちゃんが一度だけでいいから見たかったのに。
お兄ちゃんの墓石に手を合わせるあの人の切ない横顔が頭にこびりついて離れない。
まだ、お兄ちゃんのこと好きですか?
そう聞いたとき
「うん。好きだよ。相変わらず。
馬鹿みたいに。」
と、儚い笑顔を見せたあの人を支えてくれる人はいたのかな?
そう思うと、じわ…と涙が滲んだ。
悔しさ、悲しさ、哀れむ気持ち、いろんな感情が複雑にわたしを支配する。
「あー。まーた泣いてんのか」
わたしが泣いていると、お手洗いから戻った陣平くんが戻ってきて、わたしの隣に腰を下ろした。
「ったく。泣き虫なやつ」
そう言いながら、わたしの涙を指で拭う。
優しくて、器用な指先から陣平くんの体温が伝わってくる。
「泣き虫だもん…泣き虫だからよしよしして」
「しゃーねぇな。来いよ」
ワガママを言ったわたしに、仕方なく腕を広げた陣平くん。
わたしはそこにぎゅっと飛び込んだ。
「…萩原のことは、俺が必ず仇を取ってやる。
絶対に犯人捕まえて、萩原の墓前に頭めり込むぐらい土下座させてやる。」
そこまで言うと、陣平くんはぎゅ…っとわたしを抱きしめる力を強めた。