第20章 兄が愛した人 ☆
松田side
帰宅後、ミコトはずっと俺の腕を抱きしめて離さない。
何を話すでもなく、ただ俺の腕を抱きしめながらうぅう…とうめき声をだす俺の彼女は、萩原の彼女に会ってから様子がおかしい。
まさか、萩原や千速のことをよく「シスコン」と言って馬鹿にしていたが、逆にミコトも萩原に彼女がいたと知って複雑な気持ちになっているんだろうか。
そんなことを考えながらミコトの髪を撫で、気づけば2時間も経っている。
そろそろ晩飯の準備をしねえとだし、それに…
「ミコト…」
「なに?」
「ちょっと離してくれ。便所に行きてえ」
「…やだ」
そう言ってミコトは俺の腕をさっきよりも強くぎゅっと抱きしめる。
やだって…俺にここで漏らせって言うのか!?
「オメー、俺が漏らすところ見てぇのか?」
「見たいわけ無いでしょ!?」
冗談交じりにそう聞くと、ミコトは逆ギレしながら俺を睨む。
どうしろと…
久しぶりのミコトのわがままに思わず呆れた表情を見せた俺を見て、ミコトはぽつりとつぶやいた。
「…離したら、陣平くんどこかにいっちゃうもん」
「何だそれ」
ミコトはたまにこういうよく分からないことを言い出す。
何だよどこかに行くって…
便所に行きてぇだけだろ?
「あの人、お兄ちゃんときっとずっと一緒にいたかったはずだよね」
「?あぁ…。まあ俺が見る感じどちらかと言うと萩原のほうがベタ惚れって感じだったけどな」
「もしかしたら、わたしのもうひとりのお義姉さんになるかもしれなかった人。
そう考えると、切なくなって…っ」
そう言いながら、ミコトは俺の腕をまたぎゅっと抱きしめて顔を埋めた。