第20章 兄が愛した人 ☆
松田side
萩原の彼女に会ってから、ミコトはずっと悲しい顔をしている。
本来なら、兄の彼女と仲良く談笑する未来があったのかも知れねぇが、萩がいなくなったことでそれは露と消えた。
萩原家の墓がある寺の前でタクシーを拾い、俺の家に帰ろうとした時、ミコトが突然運転手に違う行き先を告げた。
「すみません。千福寺までお願いします。」
「かしこまりましたー。」
「は?!」
突然ミコトがある寺を行き先に指定したのを、俺は驚くばかりだった。
その寺は、何の偶然か俺の家系の墓がある寺だったから。
「何で急に…それに、お前どうして」
一体何の目的でミコトがその寺を行き先に指定したのか、それに俺の家系の墓がある寺なんて、ただの偶然か?
よく分からないこの状況に、俺はただ頭にはてなマークを浮かぶことしかできない。
萩原家の墓からタクシーで20分。
ミコトの真意がわからないまま、目的の千福寺に到着した。
到着するや否や、飛び出すようにタクシーを出たミコトは、千福寺の中に入るのかと思いきや、なぜか隣の空き地の前に立ち尽くした。
「おい。何やってんだよ。
何なんだよここは!」
「…無い…」
ミコトは何もないだだっ広い空き地を見ながら、ぽつりとこぼした。
「無いって何が?」
「わたしがタイムス……っ…なんでもない」
勢いのまま何かを言おうとしたミコトは、ハッと思い出したかのように固まった後、何でもないと言いながら俯いた。
「…なら、もう帰るぞ。」
「帰るってどこに?!」
「…俺んちだろ?
腹減った。なんか美味いもん作ってくれよ」
「うん…」
ミコトはまるで小さい子供みたいに俯いて、俺の手をぎゅっと握った。
俺はその手を引いて、またタクシーを捕まえるために大通りに出た。