第20章 兄が愛した人 ☆
兄の墓に向かって狼狽えるわたしを見ながら、その女性は美しく笑った。
「…萩原くんに、似てるね。」
まるで、わたしを見てお兄ちゃんの面影を探すように、どこか悲しそうな目をして。
ものすごく、申し訳ない気持ちになった。
もしもあの日、わたしがお兄ちゃんを救えていたら、この人と今頃手を繋いだり…キスしたり…
わたしが今陣平くんといるのと同じように、2人の時間を過ごせていたのに。
何も言葉が出てこなくて、どうしよう…と思わず黙り込んでいると、その人は代わりにわたしに話しかけてくれる。
「萩原くん、妹が可愛いってずっと言ってたよ。
最後に萩原くんと会ったとき、妹にトロピカルランドへ連れてけってせがまれてるって笑ってた」
強い人だ。
お兄ちゃんが亡くなって、まだ1年しか経っていないのにこんな風に懐かしんで話すことが出来ているなんて。
わたしが陣平くんのことを、笑って話せるようになるのに、2年はかかった。
もしかして、もうお兄ちゃんのことは吹っ切れた?
お兄ちゃんには悪いけど、そうあって欲しい。
大切な人を亡くした傷は、どんな名医でも治せない。
きっと治せるのは、新しい大切な人だけだ。
「…あの!」
「?」
「お兄ちゃんのこと、好きですか?今も…」
「…おい、ミコト」
そんな失礼なことを聞いたわたしに、陣平くんが嗜めるように眉を顰めた。
お兄ちゃんの彼女は、フ…と片眉を下げて笑う。
「うん。好きだよ。相変わらず。
馬鹿みたいに。」
もともと綺麗な顔が、更に綺麗に儚げに見え、胸が苦しくなる。
「萩原くんを超える人なんて、きっともう現れないと思う」
「…俺たちはもう行くから、萩原とゆっくり話せよ。
ほら、ミコト。行くぞ」
「うん…」
そう言って、これ以上余計なことを言わないように陣平くんはわたしの手をグッと引いた。
萩原くんを超える人なんてきっともう現れない
そう言ったあの人の顔が、頭から離れなかった。