第20章 兄が愛した人 ☆
お兄ちゃんに、たくさんのことを話した。
タイムスリップしたこと、陣平くんの彼女になったこと。
どうしたら、陣平くんを救えると思う?
本当はあの日、お兄ちゃんも救いたかったんだよ?
きっとお兄ちゃんは言うだろう。
そんな欲張りな願い事、神様は聞いてくれないよ。
俺が助からなかったのは、陣平ちゃんを救うためだ。 と。
お兄ちゃんに想いを馳せながら、陣平くんと手を繋いで霊園を出た時、前から歩いてきた女性を見て、陣平くんが足を止めた。
「お前…」
目を丸くしてその人を見る陣平くんにつられて、わたしもその人を見た。
ショートカットがよく似合う、目がくりくりと大きくて、顔が小さい。
クールな女優さんみたいな顔した女の人。
「久しぶりだね。松田くん」
その女性は、陣平くんを見るなり、少し口角を上げた。
誰…?
まさか、また陣平くんの元カノとか…?
ふとそんなことが頭によぎり、わたしは陣平くんの腕をぎゅっと掴み、今の彼女はわたし!と謎の牽制をしながら聞いた。
「知り合い?」
「警察学校の同期で
…萩の彼女」
「へぇー。お兄ちゃんの!
………え?お兄ちゃんの??」
その先の単語が俄に信じられずにいるわたしに、陣平くんはその言葉を再度繰り返した。
「彼女」
「…彼女?!!えぇえええーーー?!!?」
驚きのあまりめちゃくちゃ大きい声が陣平くんの耳を貫き、呆れた顔でわたしを見ながら言う。
「ウルセーな!」
「だ、だって!たしかに気になる子がいるとは言ってたけど!
お兄ちゃん本命作る気ないとばかり…」
いっつも、俺はみんなのモノ♪なんて言ってたし、しかもこんなに美人な人と…
待って。じゃあ引っ越しの時にわたしが陣平くんに投げたあの大人のエチケットはこの人と…
聞いてない!わたしは聞いてないよ!!
お兄ちゃん!!!