第20章 兄が愛した人 ☆
じっとミコトの顔を観察していると、ぱち…とミコトの瞳が開いた。
そして、自分の顔を凝視する俺に気付いたミコトは、ん?と首を傾げながら笑った。
「なに?陣平くん。
わたしの顔、なんかついてる?」
「…ついてる。すっげぇーでかい毛虫が」
「うぇえ!??!」
そんな明らかに嘘だとわかる嘘を真に受けるミコトは、両手で自分の顔をペタペタと触った。
「っふ…嘘だって。
お前、騙されやすいにもほどがあんぞ」
「ひどいー!ねぇお兄ちゃんー!陣平くんがいつもこうやっていじめるの!」
「いや、萩。俺はミコトのことすっげぇ可愛がってんだよ」
まるで、そこに萩原がいるみたいに、俺たちは萩原に話しかけた。
きっと萩原がいたら、俺よりも真っ先にミコトの味方をするだろう。
そう思っていたら、ミコトが笑いながら口を開いた。
「陣平ちゃーん。俺の可愛い妹をいじめないでくれる?
…へへ。お兄ちゃんの真似」
「似てねぇな。
萩原はこんなに可愛くねぇよ」
そう言いながら、俺はミコトの頭をくしゃくしゃ撫でた。
そして、ミコトに手を差し出しながら言う。
「行くか。」
「うん」
ミコトは嬉しそうに俺の手を握った。
「じゃあな、萩原。
また来るから」
そして、俺たちは手を繋いだまま、萩原の墓を後にした。