第20章 兄が愛した人 ☆
松田side
季節は巡って11月7日がやってきた。
萩原がこの世から消えて、もう1年が経った。
そして、俺とミコトがただの幼馴染じゃなくなってからも、1年が過ぎた。
萩原家之墓
そう書かれた墓石の前に立つ俺は、手を合わせながら萩原に語りかける。
萩原…
お前がいなくなってもう1年だってよ。
信じられねぇな。
この1年で、変わったことはたくさんある。
例えば、俺たちの上司だった人が異動して、今は別の野郎が俺の上司だ。
駆け出しだった俺に、後輩もできた。
そして、俺はミコトと恋人同士になり、初めて手をつないだ。
初めてキスをした。
初めて、身体を繋げた。
びっくりだろ?萩…
怒ってるか?俺の妹にやらしーことばっかりしやがってと。
それとも、喜んでくれているか?
俺は萩に謝らなきゃなんねぇこと、いっぱいある。
ミコトのこともそうだが、お前を殺した犯人の手がかりを少しも掴めてねぇこと。
俺が唯一、お前にできる弔いなのにな。
来年には、いい報告ができるようにまあがむしゃらにやるからよ。
見守ってくれよな。
そう萩原に伝えたあと、ゆっくり目を開けて隣で手を合わせるミコトを見た。
相変わらず、手を合わせる時間の長いこと。
年始の初詣のときも、随分長い間神様にお願いごとをしていた。
ミコトは今、萩原に、大好きだった兄貴に、何を話しているんだろうか。
ミコトの横顔は萩にどこか似ている。
長いまつげ、通った鼻筋にシュッとしたフェイスライン。
いつの間にこんなに美人になったんだろう。