第3章 死ぬということ
「んだよ。ただのゴムじゃねぇか」
「ただのって!
そっ!そんなの使うなんてありえない!エッチ!!」
「使わない方がヤベェだろ」
陣平くんはそう言いながら、ベッドサイドのチェストにそれをしまった。
お兄ちゃんに聞かなくても、しまう場所をちゃんとわかっている陣平くんが何だかすごく嫌だった。
「…陣平くんも使うんだ」
「だから、使わねぇ男の方がヤベェって…」
「そうじゃなくて!
…それ使うような人、いるんだ…」
あ…ヤバい…泣きそう。
陣平くんの口から、彼女がいるなんて聞きたくないのに、つい自分で墓穴を掘る。
俯くわたしの方を陣平くんが向いて、そのままわたしの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「バァーカ」
「?!」
「警察学校で女作ってんの萩ぐれぇだよ。
そんな暇も余裕もねぇから」
その言葉に、思わずわたしはパッと顔を上げて陣平くんを見つめた。
「ほんと???」
「…嘘ついてどうすんだ」
ため息を吐きながらそう言う陣平くんを見て、わたしは嬉しさが込み上げて顔がにやけるのを抑えられなかった。
単純だ。
彼女がいない
それだけでこんなに嬉しいなんて。
「…お前は、変わんねぇな」
「え?」
「医学部入って、よほど賢そーになったんだと思っていたが、昔のまんまだ。」
「なによ…もうわたし19だし、大人だよ。
見た目だって、子供じゃ無いもん…」
「あぁ。そうだな。
綺麗になったな、ミコト。」
そう言いながらわたしを見て髪を撫でる陣平くんは、やっぱりあの頃のままだ。
今もし、わたしがまだ好きだと言ったら、困る?
また2年話せなくなるの?
それなら、この想いはもう伝えずにしまっておかなきゃ。
陣平くんとまたこうして話せるようになった。
それを、ほんの一瞬の気の迷いで壊したく無い。
陣平くんを見ながら、そう思った。