第3章 死ぬということ
「ワックス、持って来んの忘れた」
「はぁー?そんなもんいらねぇよ」
「それが、明日の仕事終わり、女の子とデートなんだよ」
「仕事終わってから買ってセットすりゃあいいだろ?」
「朝から気合い入れていきたいんだ。分かれよ。
じゃあ俺、ちょっと買ってくるから2人で片付けよろしくな」
呆れる陣平くんに有無を言わさず、お兄ちゃんはヒラヒラと手を振ってわたしと陣平くんを部屋に残して外に出て行った。
「うえっ!?お、お兄ちゃん??!」
慌ててお兄ちゃんを呼ぶが、すでにシン…とした静寂が返ってくる。
「…自分の部屋だろー?萩のヤツ」
陣平くんは、ハァーッとため息を吐いた後、大人しく荷物の片付けを始めた。
わたしもその場にすとんと座り、紙袋の中身を出して片付けていく。
2人きりだ…
陣平くんと2人きりになるなんていつぶり?!
何話せばいいのかさっぱりわかんないよ…
シンとした室内のせいで、わたしの心臓の音が外まで聞こえてしまいそうだ。
お兄ちゃん…早く帰ってきてよー…
そう思いながら紙袋の中身をごそごそしていると、何かの箱を掴み、外に出した。
わたしの手に握られていたそれは、男女の営みの際に使う、男のエチケット。
「んなーーーー!!!!」
驚きのあまり思わずそれをぶん投げると、陣平くんの頭にゴスッと当たった。
「いってぇな!!
何投げたんだよテメェ」
「あっ!あ…お、お兄ちゃんのバカ!!
バカバカ変態!!」
「あぁー?」
顔を真っ赤にしてそう言うわたしを呆れた目で見ながらわたしが投げたコンドームの箱を陣平くんが拾い上げた。