第19章 ハッピーバースデー陣平くん ☆
タクシーを飛ばしてまた40分。
時刻はもう21時半になっていた。
アパートの前に立ち、陣平くんの部屋を見上げるけれど電気はついていない。
「…きっと、疲れて眠ってるんだよ」
彼がまだ帰ってきていないと思いたくないわたしは、そう言いながら一段一段と階段を登る。
陣平くんがくれた合鍵を取り出し、鍵穴に刺そうとした瞬間、また手が震えた。
大丈夫、きっと陣平くんはもう帰ってきてる。
ベッドで、疲れ切ってすやすやと眠っているはず。
ごく…と生唾を飲み込み、震える手で鍵をさして回した。
重い扉をガチャ…と開けて中に入りながら陣平くんの名前を呼ぶ。
「陣平くんー?」
返ってくるのは静寂。
恐る恐る、電気もつけずに部屋の中に足を踏み入れて絶望した。
そこには誰もいなかったから。
「…どうして帰ってきてないの…」
膝から崩れ落ちたわたしの目から、涙がこぼれてカーペットにシミを作る。
変なの。陣平くんはきっと大丈夫なはずなのに、涙が溢れて止まらない。
「怖い…」
あの日、お姉ちゃんから電話がかかってきたあの瞬間を思い出す。
人生で一番絶望したあの瞬間
わたしも死んでしまいたいと思ったあのとき
怖いよ陣平くん…
怖い…
だけどもう陣平くんの携帯に電話をかける勇気はなかった。
あの電子音声を聞くと、現実味が増してくる。
「陣平くん…っ…
やだ…」
ボロボロと涙を零しながら、わたしは座り込んだままベッドの端に顔を埋めた。
陣平くんの匂いがするこのベッドに突っ伏して、とめどなく溢れる涙を拭う元気もないまま、ひたすらに泣いた。