第18章 わたしの知らない陣平くん ☆
松田side
映画館に向かう途中、高校の時に付き合っていた彼女に偶然会った。
あの頃は、萩原と一緒にヤンチャという名の下好き放題やってたな…
千速に振り向いてもらえねぇなら誰でもいいや。
そんなことを思っていた気がする。
ミコトのことは、彼女なんかよりもずっと大事な存在だった。
可愛くて、天使みたいで、決して汚してはいけない姫みたいな。
そんな宝物のような存在だった。
かつては妹だと言う言葉で誤魔化した俺は、隣にいるミコトの肩を抱いて言った。
「俺の彼女、可愛いだろ」
そう言えたのが、何より嬉しかった。
隣にいたミコトは、まるで小さい子供みたいに俺の手を握った。
そして、綺麗な人だね。なんて、膨れっ面で俺を睨む。
そんなミコトに、俺は
「バァーカ。お前の方が可愛いから」
そう言った。何の迷いもなく。
これで機嫌が治るかと思っていたが、一筋縄ではいかないらしい。
ふと腕時計を見ると映画が始まる時間まであと少し。
俺は膨れっ面のままのミコトの手を引きながら映画館に足を向ける。
「ほら、映画見るんだろ?
さっさと行こうぜ」
「…陣平くん、腕組んでもいい?」
「手繋ぐ方が好きなんじゃねぇの?」
「…腕組みたいの」
そう言ってまだ少し膨れっ面のミコトは俺を睨んだ。
ここは大人しく、ミコトのしたいようにさせてやるか。
一応、俺の方が年上だからな。
余裕持って相手してやらねぇと。と思った俺は、ミコトに腕を差し出しながらぶっきらぼうに言う。
「ん。好きにしろよ」
ミコトは拗ねたまま、ぎゅっと俺の腕を抱きしめた。
歩きづらいことこの上ないほどに力強く。
こんな風にミコトに甘えられるのは嫌いじゃない。
むしろ、可愛いな俺の彼女は。
そう思ってる自分に気付き、照れ隠しに俺はミコトの髪をわしゃわしゃと撫でた。
「え?!なに?!」
「…バァーカ」
そう言うとミコトはどうせバカですよ。と俺の腕を抱く力を強める。
そんなミコトに、俺は心の中で伝えた。
好きだ。バカ