第18章 わたしの知らない陣平くん ☆
そう思っていると、陣平くんがわたしの肩を抱き寄せながら言った。
「っていうか、もう妹じゃねぇから」
「は?」
「俺の彼女。可愛いだろ?」
そう言いながら陣平くんは、いつもの自信たっぷりの笑顔で笑った。
あの日、
「俺の妹みたいなもん。可愛いだろ?
苛めんなよ?」
そう言ってくれたのを思い出した。
陣平くんに肩を抱かれながら、涙が出そうになるのを、わたしは必死で堪えている。
妹じゃなくて、ちゃんと彼女って紹介してくれる。
それが馬鹿みたいに嬉しい。
「なぁーんだ。彼女か。
陣平が1人だったら、遊んでもらおうと思ってたのに。残念」
「他当たってくれよ。
生憎、俺は一途なんで」
陣平くんがそう言うと、その綺麗な女の子はつまらなさそうに口を尖らせた後、ヒラヒラ手を振って去っていった。
「…綺麗な人だね」
「そうか?」
「うん。少なくとも、わたしよりは綺麗」
「相変わらず、自己評価低いねぇお前」
「だって、事実だし…」
そう言いながら顔を膨らすわたし。
甘やかされて育ったわがままな末っ子に、陣平くんはやれやれ。と言いながらわたしのほっぺたをむにゅ…とつねる。
「バァーカ」
「じ、じんぺ…」
「お前の方が可愛いから」
そう言ってわたしの髪をぐしゃぐしゃに撫でた。
それはわたしにとって、最高の褒め言葉のはずなのに、天邪鬼なわたしは陣平くんを睨みながら思う。
可愛いと綺麗じゃ全然違うんだよ…
「ほら、映画見るんだろ?
さっさと行こうぜ」
「…陣平くん、腕組んでもいい?」
「手繋ぐ方が好きなんじゃねぇの?」
「…腕組みたいの」
そっちの方が大人っぽいから…
わたしは26歳だったはずなのに、タイムスリップしてきてまた子供に戻ったみたい。
陣平くんの隣にいると、どうしても自分が子供に思えて焦りが生まれる。
バカみたいなわたしの嫉妬なんて気付かず、陣平くんは腕を差し出した。
「ん。好きにしろよ」
わたしは喜んで陣平くんの腕に手を回す。
逞しい陣平くんの腕。
いつもわたしを抱きしめてくれる大好きな腕。
誰にも渡さない。
そう思いながら、陣平くんの腕をぎゅっと抱きしめ、映画館へと向かった。