第18章 わたしの知らない陣平くん ☆
喜んで彼の手を握り、映画館まで歩き出そうとした時、後ろから陣平くんを呼ぶ声がした。
「あれ?陣平?」
陣平くんのことを陣平と呼び捨てにするのは、お姉ちゃんしか知らない。
明らかにお姉ちゃんの声じゃないことを自覚しながら、わたしは振り返って声の主を見た。
「久しぶりー!元気?」
そう言いながら陣平くんに手を振ったのは、キレイな女の子。
どこかで見たことあるような…
そう思いながらその子の顔をじっと見ていたら、その女の子もわたしの顔を見ながら言った。
「あれ?…もしかして、陣平の妹って言ってた子?」
その言葉を聞いて、ハッと思い出した。
わたしが中学の時、高校生になった陣平くんが連れてたあの女の子だ。
わたしを見て、妹だって。カワイイ。って言ったあの子。
陣平くんは特段表情を変えずにその子に返事をする。
「あぁ。久しぶりだな。」
「高校の卒業式以来だから、4、5年ぶりだよ!」
「そんなになるか」
そんなふうに談笑を始めた2人は、どこか普通の友達とは言えない雰囲気で、わたしは陣平くんの手を思わずぎゅっと握った。
この人に、陣平くんを取られたくない。
本能的にそう思ったんだと思う。
「警察官になったって聞いたよ?
あのヤンチャな陣平が!」
「ウルセェよ」
「だって!卒業式の日に最後の思い出なんて言ってあんなことする陣平がまさか警察!!
びっくりだよ」
「あれはオメーから言い出したんだろ?」
そんな会話、聞きたくなかったな…
きっとこの2人は、あの頃付き合ってたんだね。
付き合っていなくても、そういう仲だったのは間違いない。
陣平くんの隣で手を繋いでるわたしは、未だ妹に見えるんだろうか。
もう立派な大人なのに。