第18章 わたしの知らない陣平くん ☆
夏が過ぎ、食欲の秋がやってきた。
「ねぇー!このケーキすっごく美味しいー!ふわふわあ!」
目の前に提供されたいちごのケーキを指差しながら、間抜けな声を上げるわたしを陣平くんはコーヒーを啜りながら呆れた顔で見た。
「ふわふわあーって…ガキかよ」
「なによー!
陣平くんなんて、カッコつけてブラックコーヒーなんて飲んじゃって。
本当はケーキ食べたいくせに!」
「バーカ。
俺がそれを食べてふわふわあーなんて言うと思うか?」
陣平くんに言い返すも、全部ストレートで返り討ちに合う。
そんな余裕の笑顔がわたしは好きだから、文句も言えず、わたしはまたケーキを口に運んだ。
美味しいものを食べるとすぐ上機嫌になるわたしを陣平くんは呆れた目をして笑って言う。
「それ食ったら行こうぜ。
そろそろ映画の時間だ」
「あ、ほんとだ!」
今日は陣平くんと映画デート。
そしてその後はそのままスーパーで買い物をして、陣平くんのお家にお泊まりだ。
このところ陣平くんは仕事が忙しく、2日間一緒にいるのは久しぶりだった。
ケーキを食べてお店を出ると、陣平くんがわたしの方は手を差し出して
「ん」
そう言いながらわたしの手を握った。
こんなふうに、もう当たり前みたいに手を繋いでくれるから、たまに忘れそうになる。
わたしは、陣平くんと付き合えていること自体が奇跡なんだということを。