第3章 死ぬということ
「ミコト、しばらく見ないうちに美人になったなぁー。
流石、俺の妹だ。
大学でモテモテだろ?」
「それが!医学部の女はびっくりするほどモテないの!
聞いてないよー!理系やめとけばよかったな」
「はははっ。大変か?授業は」
「2年生になって、ようやく医学の授業が始まったとこ。
まだまだこれからだよ」
「楽しみだなあ。
ミコトが医者で俺が爆処の警察官。
俺が救えなかった人を、ミコトが救うかもしれないもんな」
そんな縁起でもないことを言うお兄ちゃん。
お兄ちゃんが救えなかったって、それ、爆発物処理を失敗した時でしょ?
冗談でも、そんなこと言わないでほしい。
妹であるわたしが珍しくお兄ちゃんを叱るように睨んだ。
「人のことより、自分の心配してよね?
…爆発物処理班なんて、いつ殉職してもおかしくない危険な仕事じゃん…
もっと…町の交番とかで良かったのに」
「まあそう言うなよ。
陣平ちゃんが入りたがって聞かなかったんだから」
陣平くん…
その名前を誰かから聞くのも久しぶりだった。
彼は、元気だろうか。
喧嘩っ早いところがあるから、集団生活は大丈夫だったのかな?
まだ、お姉ちゃんのことが好き?
それとも、別の彼女がいるのかな。
最後に、わたしを思い出したのはいつ?
なんて、性懲りもなくまだ陣平くんのこと想っている自分にいい加減に呆れてしまう。
お兄ちゃんはそんな複雑そうな顔をするわたしを、優しく微笑みながら横目で見た。
ハンドルを握るお兄ちゃんの姿を、もっとちゃんと見ておけばよかったのに、この時のわたしはひたすらに窓の外ばかり見てた。