第16章 ある夏のはじまり
松田side
ミコトの料理はどれも全部美味い。
味付けがいいと言えばそうなんだが、それよりも愛情がたっぷり入っている味がする。
温かくて、安心する味が。
夕食を終えた俺は、ローテーブルの上を片付けるために立ち上がろうとしたミコトの腕を掴み、またすとんと座らせた。
そして、ミコトの腰あたりに両手を回すと、甘えるようにしてミコトの身体に抱きついた。
「陣平くん?」
「ミコト…頭撫でて」
いつもなら、なでなですんな。と言う俺が、まさかそんなこと言うとは思ってなかったらしく、ミコトは目を丸くして固まった。
そしてそのすぐ後に歓喜の声をあげる。
「かっ!かわいい!!陣平くん可愛いーー!」
可愛いを連呼されても、俺は反論する気にはなれず、いいから早く頭撫でろよ。なんて思いながらミコトの胸に顔を埋めた。
「よしよし。今日の陣平ちゃんはあまえんぼだね」
「…ミコトになら、甘えてもいいかって思ったんだよ。」
俺が唯一、弱いところを見せられる
甘えることのできる場所。
ミコトの細い指が俺の癖っ毛を繊細に撫でた。
「陣平くん。
わたしがいるから、大丈夫だよ」
そう言って髪を撫でるミコト。
何があったの?話して?とは一言も聞かず、ただ俺をひたすらに癒してくれる。
「…今日イライラしてたのは、異動願いが却下されたからなんだ」
「異動願い…?」
「特殊犯係への異動。
…萩を殺した爆弾犯を捕まえるために」
そう言うと、ミコトが俺の頭を撫でる動きがピクッと止まった。