第16章 ある夏のはじまり
クッソ…
こんなに全力で走ったの、警察学校のとき以来だぜ…
ぜぇぜぇと上がる息を必死に整えながら腕を振って走っていると、目線の先に駅の改札口が見えた。
そして、改札を今まさに通ろうとしているあの後ろ姿は…
「ミコト!!!!!」
俺は、周りの人間全員振り返るほど大きな声で、ミコトの名前を呼んだ。
改札を入る寸前だったミコトは、その声に驚いてICカードをかざす手を止め、俺の方を見た。
「え…陣平くん…!?」
一目散に全力で走ってくる俺を見て、驚いたように目を丸くしたミコトは、改札を通るのをやめ、駅の外まで歩いてきた。
俺はぜぇぜぇと荒い息を吐きながら、ミコトの腕を掴んだ。
「…なんでいなくなんだよ」
「え?だって陣平くん…」
そうだよ。俺が寝てたから、そりゃ帰るだろう。
全部俺が悪いのに、理不尽なことを言われてもミコトは少しも怒らない。
俺はたまらず、ミコトの腕を引き、ミコトを自分の腕の中に閉じ込めた。
白昼堂々、駅で大勢の人が怪訝そうな顔俺たちを見ている。
「じ、陣平くん?
めちゃくちゃ人見てるよ!?」
「…悪かったよ。ミコト」
「え…」
「…俺と一緒にいてくれ。明日まで。」
ただ、ミコトと一緒にいたかった。
俺が何にイラついてたのかも、ミコトに聞いて欲しかった。
そんな俺に、抱きしめられたミコトは嬉しそうに笑いながら、俺に抱きついてきた。
「いる!!」
その笑顔が眩しくて、可愛くて愛しくて、思わずその場でキスしそうになったのを慌てて思いとどまった。
「…じゃあ、帰って一緒に飯食おう」
「うん!陣平くん。手、繋いでもいい?」
そう言って差し出されたミコトの手を、俺はぎゅっと握った。