第16章 ある夏のはじまり
陣平くんは沈んだ表情のまま、寝ると言ってベッドに転がった。
せっかく久しぶりに2人で会えたのにな…
陣平くんが土曜日お休みなのは久しぶりだった。
今日は金曜日だから、本当なら泊まって明日まで一緒にいようと思っていたけど、陣平くんがこんな調子じゃ今日帰らないとだめだな…
仕方ない。
そう自分に言い聞かせて、わたしは極力音を立てないようにキッチンで夕食の準備を始めた。
ほうれん草のおひたしに、にんじんしりしり、
筑前煮と豚の生姜焼き。
それにお味噌汁。
ワンルームのキッチンで作るには結構大変な量だけど、陣平くんが少しでも笑顔になれるなら何も苦じゃなかった。
料理が完成する頃、時計の針は20時を指していた。
帰宅してから2時間
ちら…とベッドの方を見ると、陣平くんはまだ眠っているようだ。
起こしたらかわいそうだよね…
今日はこのまま帰ろうかな。
わたしがいたら休まらないだろうし…
そう思ったわたしは、作った料理をすべてタッパーに入れると冷蔵庫にしまった。
そして、机の上にメモを残し、陣平くんを起こさないようにこっそりと部屋を後にした。