第16章 ある夏のはじまり
松田side
大学の正門前に到着すると、ミコトがあのプリンスと親しげに話している様子が目に飛び込んできた。
あのカップルコンテストで、鈍感な俺でもすぐに気づいたぞ…
あの男は確実にミコトのことが好きだ。
それに気づかないミコトにも、俺のものだとわかっていて諦めないあの男にも苛立ちが募る。
苛立ちが募ったまま、ミコトを助手席に乗せてスーパーで買い物を済ませた。
ミコトはちらちらと機嫌を伺うように俺の顔を見てくる。
わかってる。
こんな風に苛立っても何も変わらねぇ。
結局俺は、萩原が誰に殺されたのかこの手で真実をつかめないまま、いつか萩原と同じように爆発物処理班で殉職する未来しか見えない。
自宅に着いた俺は何も言わずに車から出た。
ミコトは俺の方を心配そうに見ながら、俺の後をちょこちょこと着いてくる。
まるで、小学生の頃俺の後ろを追いかけて着いてきたあの頃のように。
イラつくんだよ…
俺の異動願いを却下した警察組織にも
自分がどれだけ男の目を引いているのか自覚していないミコトにも
俺の彼女だと知っているくせに諦めようとしないあの男にも
自宅の鍵を開け、中に入ると俺はスーパーの袋をキッチンの上に無造作に置くと、そのままベッドに直行した。
「悪いけど、ちょっと寝るわ。」
「うん。おやすみ」
ミコトは少しだけ寂しそうな顔をしながら、それでも俺に笑顔を向けてくる。
一番イラつくのは、俺自身だ。
無力な俺自身…