第16章 ある夏のはじまり
新出くんの言う、悪いのは僕。の意味が全くわからず、わたしは首を傾げた。
「…僕は」
新出くんが何かを言おうとした時、通りの向こうからクラクションが鳴る音が聞こえた。
パッパァー
ふと音のした方を見ると、陣平くんの車がある。
「あ…じゃあ、行くね?」
「うん。また、明日」
新出くんが何を言いかけたのか気になりつつも、わたしは大急ぎで陣平くんの待つ車に向かった。
助手席のドアを開けると、陣平くんが開口一番わたしを叱る。
「こら。ちゃんと車来てないの確認しながら渡れよ。
危ねぇだろ」
片側一車線の道路。
横断歩道を渡るのを面倒くさがり、ついつい車道を渡ってしまったわたしは、ごもっともなお叱りにしゅんと下を向く。
「ごめん…陣平くんに早く会いたくて」
「…へぇ。その割には楽しそーに話してたじゃねえか。
あの王子と」
拗ねた口調でそう言うと、陣平くんは停車していた車を発進させた。
まさか、これって…
不機嫌そうな顔して運転する陣平くんに、わたしは少しだけ期待を込めて冗談っぽく聞いた。
「もしかして、ヤキモチ?」
「バカ。違うっつの」
そう言う陣平くんは、拗ねているというより超絶不機嫌そうな顔をしている。
やっぱり仕事でなにか合ったんだ。
そう察したわたしはそれ以上突っ込んで聞かなかった。
「悪いミコト。今日、ラーメン食い行こうって言ってたけど、家でもいいか?
ちょっと疲れ溜まってて…寝たい」
「うん。大丈夫!
じゃあ、スーパー寄ってくれる?
元気が出るご飯たくさん作るから!」
精一杯笑ってそう言ったけど、陣平くんの顔は曇ったままだ。
わたしが、陣平くんのすべてを癒やすことができたらいいのに。
ひたすらにそう思いながら、陣平くんの横顔を横目でチラチラ盗み見ていた。