第16章 ある夏のはじまり
松田side
「はぁ?!異動願は却下!?」
警視庁警備部の一室。
俺は目の前に座って腕を組む上司に食ってかかった。
萩原を殺した爆弾犯をこの手で捕まえるため、俺はずっと捜査一課の特殊犯係への転属を希望していた。
が、それが却下になったとたった今上司から聞いたのだ。
「松田。お前が異動したいのは萩原の敵討ちのためだろう?
警察組織というのは、ただでさえ私情を挟むのは御法度だ。
そんな異動願いが通ると思うか?」
「…俺は、萩原と約束したんすよ。最期に」
「諦めろ。お前は、爆処で萩原の分まで頑張ってくれ。
それが、1番の弔いだよ」
それだけ言い残し、上司は俺を残して部屋を出て行った。
「クソッ…!」
俺はそこにあったパイプ椅子をガンッと蹴り飛ばし、イライラする頭をガシガシと掻いた。
爆処で萩原の分まで頑張れ。
今まで何人に同じことを言われたことか。
そんなんじゃ弔いにならねぇんだよ。
萩原は俺の大事な、唯一無二の親友だ。
そして、俺の大事な女の兄貴だ。
俺の手で、あいつを殺した爆弾犯を捕まえないと浮かばれねぇ。
どうして誰も分かってくれないんだよ…
はぁ…とため息ばかりが漏れるが、大きな警察組織の中でたった一人の駒である俺にはなんの力もなかった。
毎年、毎月、却下されようが異動願いを出し続けるしか無かったんだ。