第14章 桜の木の下で ☆
どんな顔をしたらいいかわからずにソワソワしている陣平くんをよそに、母は、またあっけらかんとそれに応える。
「あら。じゃあ今日はパパも千速もいないし、夕飯手抜きできて助かるわー。
…遠慮せずに、あなたが一緒にいたい人と居ればいいの。
後悔しないようにね。」
きっと母は、お兄ちゃんが志半ばで人生を終えたことで、わたしには後悔せずに今を全力で生きてほしいという気持ちがあるんだろう。
わたしもそれを理解して、母に笑顔で行ってきますを言った。
「うん!わたし、今陣平くんといて、すごく幸せ。
行ってくるね!」
元気よく手を振って出て行くわたしたちを、母はわたしたちが小さくなるまで家の前まで出てきて見送ってくれた。
家の前の道の角を曲がり、駅に向かう大通りに出た時、突然陣平くんがその場に座り込んだ。
「あー…」
「ど、どうしたの!?お腹でも痛い?」
「いや。…すっっげぇ緊張した」
口元を両手で覆いながらはぁぁ…とため息をつく陣平くん。
わたしは彼の隣にしゃがみ、顔を覗き込みながら言う。
「緊張って…よくうちに遊びにきてたじゃん。
今更緊張しないでしょ」
「わかってねぇな。
友達の家と彼女の家じゃ、全然違うんだって。」
「彼女…」
その響きが未だに嬉しくて、わたしはきゅぅんと胸が高鳴る。
「おい…まさか、まだ彼女の自覚ねぇのか?」
「あ!あるよ!さすがに!
だって…あんなことやこんなこともしたし!」
「あんなことこんなこと?
ミコトのヘンタイ」
「じっ!!陣平くんがあ!」
顔を真っ赤にして言い返そうとするわたしを見て、陣平くんは声を上げて笑った。
「っふ…ははは。
お前、笑わせんなよ。
彼女の母親に挨拶して緊張してたのに一瞬で溶けたっつーの」
そう言いながらわたしの髪をわしゃわしゃと撫でる陣平くん。
あぁ…もうお花見よりも今すぐ陣平くんの家に行きたい…
そう思うわたしは陣平くんの言うようにヘンタイ決定だ。
「ほら、行こうぜ。花見。
腹減ったしお前の弁当早く食いてぇ」
陣平くんはそう笑うと、わたしの手をぎゅっと握って引いた。
繋がれた手が解けないように、わたしもぎゅっと握り返した。