第14章 桜の木の下で ☆
松田side
俺は今、萩原と書かれた表札の前に立っている。
今日はミコトと花見に行ったあと、俺の家で明日の朝まで一緒にいようと約束していて、俺は今、実家までミコトを迎えにやって来た。
思えばこの家に萩じゃなくてミコトを訪ねるのは初めてかもしれない。
今の俺は、ただの萩原のダチ。と言うだけではなく、妹 ミコトの彼氏だ。
通い慣れた萩原家が突然魔王の住む家みたいに感じる。
今日は日曜。
親父さんやお袋さんもいるよな…きっと。
そう思いながら、恐る恐るインターフォンを鳴らした。
ピンポーーン
「はーい?」
がちゃり。と扉が開いて出て来たのは萩のお袋さん。
つまり、ミコトの母親だ。
「あら!松田くん!」
「ご無沙汰してます。」
ミコトの母に会うのは萩の葬式以来だ。
俺には似合わないぐらい大人しくぺこりと頭を下げると、萩原母は笑いながら言う。
「どうしたの?うちに訪ねてくるなんて。」
「今日は…ミコトさんと出かける約束を」
「ミコトと?」
萩原母は不思議そうに首を傾げた。
当然だ。
俺とミコトは小学生からの付き合い。
いわば兄妹同然の仲だと思われているはずだから。
なんて説明しようかと迷っていると、家の奥からミコトの声が聞こえた。
「おかーさーん。
塩が無いんだけどどこー?…あれ。
え?!陣平くん!」
「…よぉ」
ミコトは玄関で母と話す俺を見て、目を丸くして声を上げた。
そして、慌てて時計を確認する。
「わ!やば!もうこんな時間だ!
台所の時計10分遅れてるじゃん!」
状況が飲み込めていない母親をそっちのけで慌てふためくミコトに、萩原母は思わず突っ込んだ。
「ちょ、ちょっと待って。
ミコト?松田くんと一体…」
母親にそう言われ、ミコトが口を開こうとした時、咄嗟に俺が口を挟んだ。
「付き合ってます」
「え?」
「じ、陣平くん…」