第11章 ハタチになる日
まあそうか。
付き合ってる恋人同士が誕生日を一緒に過ごさない(なんなら誕生日を知らないかもしれない)のはありえない話なのかもしれない。
「会わないよ」
きっぱり言い切ったわたしに、アユは慌てて聞く。
「は?会わない?!マジ?!
付き合って初めての誕生日でしょ?」
「うん。けど、陣平くんは仕事忙しそうだし…
それに、いいの。
付き合えただけで幸せっていうか…
何でもない日に会えるだけで、十分なんだ」
そう言うと、アユはうーん。と首を傾げてわたしを見た。
「…ミコトがそれでいいなら…
けど、会いたいときにちゃんと会いたいって言わなきゃだめだよ?
彼女なんだし、少しのワガママは許容範囲なんだから!」
「そうだね!陣平くんの誕生日は一緒にお祝いしたいって言おうかな」
「あんた…聖人なの??
自分の誕生日の方が大事でしょー」
聖人なんかじゃない。
ただ、最近幸せなことが重なりすぎて、逆に怖いの。
朝起きたら、全部元に戻ってたらどうしよう。
目が覚めると、わたしは病院のベッドの上で、26歳になっていたらどうしよう。
また陣平くんがいない世界だったらどうしよう。
幸せを感じれば感じるほど、それが脳裏によぎって手放しで喜べなくなる。
けれどこんな心情を話せるはずもなく、わたしは心配してくれるアユを宥めながら、授業の準備を進めた。