第10章 愛してるなんて ☆
トロピカルランドのエントランス前で人目も憚らずにハグをする俺。
さっき、バカップルばかりだと散々周りの客を馬鹿にしていたが、自分たちの方がバカップルなのかもしれない。
「陣平くん?」
突然抱きしめられたミコトはどうして良いか分からずに俺の腕の中で固まっている。
俺はミコトの耳元で、ミコトにだけ聞こえるように囁いた。
「今日のミコト、すげぇ可愛い」
そこまで言うと途端に恥ずかしくなり、赤くなった顔を隠すようにミコトを抱きしめる力を強めた。
「ほっ、ほんと?!」
ミコトは嬉しそうな声で俺の背中に手を回した。
あぁ。外で会ってもこれじゃあどうしようもねぇな。
俺はゆっくりミコトから身体を離すと、ミコトの手を握って引いた。
「ほら、行くぞ」
今日は外で、普通のデートをするんだ。
付き合ったばかりの、普通の清いデート。
何度もそう自分に言い聞かせ、ミコトの手を引いてトロピカルランドの中に向かおうとすると、ミコトが引かれた手をグッと逆方向に戻そうとする。
「?トロピカルランド、行きたいんだろ?」
「…繋ぎ方、ちがうのがいい」
「繋ぎ方??」
ミコトの言ってる意味がわからず、俺が真意を問うと、ミコトは頬をピンクに染めながら俺をじっと見たと思えば、俺が握った手を一度解き、再度指と指を絡める様な形で手を繋いだ。
「恋人繋ぎがいい」
まさかミコトにそんなリードをされるとは思わなかった俺は、不意打ちでドクンッと胸が高鳴る。
やべぇな。
うっかりしていたら、こいつのペースに乗せられて、何なら外で手ェ出しちまいそうだ。
今日のデートが清いまま無事に終わる気がしなくて、俺は前途多難だとため息をつきながら、トロピカルランドに足を踏み入れた。
ミコトと、恋人繋ぎをしたまんま。