第10章 愛してるなんて ☆
松田side
トロピカルランドのエントランス前に到着した俺は、もう思った。
心底、帰りてぇ…
周りを見ると幸せそうな家族連れに、お互いしか見えてないという感じのカップル、揃いの耳をつけたお気楽そうな女子高生。
俺だけがひとり、この場所に浮いている気がする。
大体、親父が誤認逮捕されるという過去を持つ俺は、家族でこんな場所に来たことがない。
だから、余計に未知な世界の入口に立たされてる気分だ。
腕時計を見るとまだ10分前。
どう考えても早く来すぎた。
これじゃあまるで、俺がミコトとのデートが楽しみで気がはやってるみたいじゃねぇか。
そんなことを理不尽にも考えてイライラしていると、遠くの方からミコトが走ってくるのが見えた。
「…走んなよ。転ぶぞ」
ぽつりと、まるで父親が子供を見てそう心配するかのような言葉が俺の口から滑り出た。
ミコトは転ぶことなく、無事に俺の前に立ち止まった。
はあはあと息を吐き、少し崩れた前髪を直しながら俺に笑いかける。
「陣平くん、はやーい!」
「…お前が遅いんだよ」
「え?でもまだ5分前だよ?」
むしろ早いでしょ?と言うふうにミコトは首をかしげた。
そんなミコトを頭のてっぺんから爪先までじーっと目で追う俺。
ニットの少し丈の短いワンピースに大きめのストールを巻いて、白いコンバースのハイカットを履いている。
髪は普段とは少し違って、毛先がふわりとカールしている。
「…今日、雰囲気違うな」
普通、可愛いと正直に言うべきところを俺はついまた遠回しな言い方をしてしまう。
改めて、可愛いと言う言葉をサラッと言える萩原は実は天才だったんじゃ無いかとすら思うぐらいだ。
「陣平くんとデートだから、自分なりに可愛くしてきたつもり」
そう言いながら顔を赤くして笑うミコトがたまらなく可愛くて、俺は思わずその場でミコトの手を取り、ぎゅっと腕の中に閉じ込めた。