第9章 俺のだ ☆
陣平くんがお風呂から戻ってきた。
同じシャンプーの匂いがするのが嬉しくて、思わず陣平くんに近づいて香りを嗅ごうとすると、陣平くんはわたしからぱっと離れた。
「?どうしたの?」
「いや?…お前、ベッド使っていいから」
そう言って陣平くんは、カーペットの上でクッションを頭に引いてゴロンと横になった。
「え!雑魚寝!?
明日も仕事でしょ?」
「いいから、警察官はな、どこでも寝られるように訓練されてんだよ」
そんな風に戯ける陣平くんの携帯が、またピリリリと鳴った。
「陣平くん、また鳴ってるよ」
「さっき出ようとしたら切れたからな。
…もしもし?なんだよ、どうした?」
陣平くんはわたしのすぐ隣で気だるそうにその電話に出た。
受話器から相手の話している声が微かに聞こえる。
高い…女の人の…声…
ザワザワと胸がざわついて、思わず陣平くんを睨んだ。
そうとは知らない陣平くんは、電話の相手と少し親しげに会話していて、数分間話した後電話を切った。
ピッ
「悪い、済んだから」
そう言ってわたしの頭をくしゃくしゃと撫でた陣平くん。
わたしはむすっと口を尖らせながら陣平くんを睨む。
「女の人と、電話してた」
「あぁ。俺の同期。萩の同期でもあるか。」
同期…
そういえば、お兄ちゃんが言ってたな。
警察学校の同期で、1人気になる子がいるって。
陣平くんにもいたのかな…そういう子が。
そう考えると、途端に焦燥感に駆られる。
陣平くんの彼女になれたのは奇跡だから、気を抜けばあっさり他の子に取られて未来がまた元通りになってしまいそうで怖い。