第9章 俺のだ ☆
松田side
ミコトがキッチンに立つ姿を初めて見た。
飯に連れてくなんて言って、無茶振りの如くスーパーに連行して今ここで料理を作らせているけれど、ミコトはテキパキと飯の準備を進めている。
ミコトが料理出来たってこと、初めて知った。
それに、思いつきでミコトを家まで連れて来たけど、大丈夫か俺…
さっき、何とも思っていないフリをして何もしねぇと言ったが、だんだん自信が無くなってきた。
俺は明日は朝から出勤だし、ミコトは朝から大学の授業。
終電前には帰さないとな。
そう思いながら、キッチンに立つミコトをじーっと眺めていると、ミコトは嬉しそうに俺の方に作ったカレーを持ってきた。
「じゃーーん!完成!」
そう言いながら、ローテーブルに並べたカレーはちゃんと美味そうだ。
「美味そう」
「味はめちゃくちゃ自信ある」
そう言ってミコトは笑いながらスプーンを差し出した。
「いただきます」
丁寧に手を合わせてそう言い、スプーンで掬って口に運ぶと、今まで食ったどんなカレーより美味かった。
「うま」
「ほんと?」
「警察学校の食堂のカレーの1000倍美味い」
「なにー?その例え」
俺の奇妙な例えを聞いて、ミコトは眉を下げて笑った。
なぁ萩原…
お前の置いてった宝物は、相変わらず眩しいな。
お前が死ぬ前日に、お前とミコトの話をしていなかったら、俺は多分今もミコトを遠巻きに見ていた気がする。
こうしてミコトに付き合おうと言えたのは、萩原が最後にミコトを頼むと言ったからだ。
お前の代わりに、俺がこいつを守ってやるよ。
俺がこの世からいなくなるまでずっとな。