第9章 俺のだ ☆
陣平くんのアパートは、過去と同じところだった。
お兄ちゃんの見栄の張った綺麗なマンションとは違い、相応のアパート。
もちろんオートロックはついていない。
「お兄ちゃん、よっぽど見栄張ってたんだね…」
「俺は寝れりゃどこでもいいから尚更だな」
そう言いながら、陣平くんは2階の部屋に向かって階段を上がって行き、わたしはその後ろを追いかけた。
鍵を開け、中に入ると懐かしい陣平くんの部屋の匂いがして、思わず泣きそうになった。
あの頃は、陣平くんの彼女になりたくて、毎日毎日足繁く通い、ご飯を作ったり掃除をしたり家政婦まがいのことをしていた。
でも、今はちゃんと彼女としてこの部屋に足を踏み入れるんだ。
ドキドキしながら足を踏み入れた時、陣平くんがわたしを見て笑った。
「緊張してんのか?」
「す、するでしょ!普通…」
「心配すんな。何もしねぇよ」
陣平くんはそう言いながらわたしの頭をわしゃわしゃと撫でた。
何もしないんだ…
勝負下着じゃないからダメ!なんて思っておきながら、少しがっかりしてる自分がいる。
「腹減った。早くカレー食いてぇ」
そう言って口を尖らず陣平くんは、まるで小さな子供みたいだ。
今まで見れなかった一面が見えて、ふふっと笑うと、わたしは張り切ってキッチンに立った。
あの頃、何度も何度もここで料理をした、狭いワンルームのキッチンで。