第9章 俺のだ ☆
陣平くんの車が到着したのは、陣平くんのアパートの近くのスーパーだった。
「陣平くん…ここは?」
「見りゃぁわかんだろ?
スーパーだよ」
「それはわかるよ!?
ご飯は?!?ご飯食べに行くんじゃないの!?」
予想外すぎる展開に慌てふためくわたしをよそに、陣平くんはズンズン中に入り、カゴを手に取った。
「なんか作ってくれよ」
「お前次第ってそういうこと?!」
てっきり何か食べに行くものだと思ってたわたしは、突然始まる抜き打ちテストに狼狽える。
とは言え、わたしは本業は医者だ。
基本的に自炊してたし、料理は得意な方だと思う。
これはもう陣平くんが絶対に死ねないと思うぐらい、胃袋をがっちり掴むしかない。
陣平くんはカレーが好きだった。
わたしは陣平くんの持つカゴに、カレーの材料をぽんぽん入れていく。
その様子を見て陣平くんが笑った。
「お。いいね、カレーか」
「うん!…思えばこんなふうに2人で買い物するの、初めてだね」
「そうだったかー?
昔は…そっか。
昔は4人だったもんな」
そう。
昔は、お姉ちゃんとお兄ちゃん、陣平くんとわたし
4人でスーパーに買い物に来たことはあった。
懐かしむと同時に、お兄ちゃんを思い出してまた泣きそうになった時、陣平くんが言った。
「また、いつでも来れるだろ。
俺とお前、今度千速も呼ぶか。」
「お兄ちゃんが、ズルい!って言いそう」
そんなふうに、お兄ちゃんのことを分かち合えるのが嬉しかった。
陣平くんはいつの時代も、いつでもわたしの心を軽くしてくれる。
明るくしてくれる、光だ。
「これで全部か?」
「うん。ぜんぶ。」
そう言ってレジに向かい、財布を出そうとするわたしを陣平くんが止める。
「学生の癖に財布出してんじゃねぇよ」
「警察官の給料は思った以上に安いって、お兄ちゃん言ってたよ?」
「バーカ。萩は女に金使いすぎなんだよ」
そう言って陣平くんは、カゴに入れた材料の会計を済ませた。
そして、買い物袋を持つとまた車に向かう。
なんだか、想像していた初めてのご飯デートとは全く違うけど、ただどこかへ外食に行くより、陣平くんに近づけた気がする。
まだ慣れない幸せを噛み締めながら、前を歩く陣平くんの背中をじっと見つめていた。