第8章 叶わぬ願いと叶った想い
「ミコト?もうチケット買った?」
「…買ってないけど」
「良かった!悪いんだけど、別の日にしてくれないか?」
ドクン…
え…嘘でしょ?
まさか…
わたしの心臓が嫌な音を立てて鳴り出した。
「どう…して?」
震える声でそう言うと、お兄ちゃんは慌てた様子で返事をする。
「それが、今日出動予定の同僚が熱を出してさ、代わりに出動要請が来たんだ。
悪いな、今度必ず埋め合わせするから」
嘘だ…
だめ…行っちゃだめだよ…
カタカタと、携帯を持つ手が震えてくる。
息ができない。
「ダメ…行っちゃだめ!」
「ミコト…ワガママ言うなよ」
流石のお兄ちゃんも困ったように言った。
だけど、これだけは譲れない。
だって今日仕事に行ったら、お兄ちゃんは…
お兄ちゃんは死んじゃうんだよ?!
「やだ!イヤ!行かないで!
今すぐここに来て!!お願い!」
トロピカルランドの入り口前で、叫ぶように電話口に向かっているわたしを、周りの人たちは不思議そうな顔して見てる。
でも、そんなものはどうでも良かった。
お兄ちゃんを救うことに必死で、嫌だと何度も言った。
「だめ!お兄ちゃん!
お兄ちゃんが死んじゃうよ…」
「ミコト…出動前に縁起でもないこと言うなよ。
…あ、じゃあ行かないと。
今度必ず埋め合わせするから!
じゃあな!」
「お兄ちゃん?!おに…」
プツ…
ツー ツー ツー
埋め合わせ、できないんだよ…
できないのに…
わたしはその場で座り込んだ。
未来を変えたと思ったのに、結局お兄ちゃんは予定通り出動してしまった。
なぜ??
もしもお兄ちゃんが救えないとしたら、わたしは一体何のために過去に来たの?
絶望をもう一度味合わせるために、神様がご丁寧に連れてきたわけ?
もしそうなら、恨むよ神様…
地面にパタパタと涙が落ちた。
そして、立ち上がるとお兄ちゃんが出動するビルに一目散に走った。
間に合わないのは分かってた。
だけど、爆弾が爆発しないことを、お兄ちゃんじゃなくて別の誰かが担当することを、
奇跡が起きることを、祈った。
願ったのに。
お兄ちゃんは、11月7日
過去の通り、殉職した。