第8章 叶わぬ願いと叶った想い
そう思いながら、何で返していいかわからないでいると、陣平くんは拗ねたように口を尖らせて車のハンドルを握った。
「…あれ?怒ってる?」
「あぁ!?怒ってねぇよ」
「でも…なんかムスッとしてるし…」
「怒るだろそりゃあ!!」
怒ってないって言った2秒後に怒ってると認める陣平くん。
「どうして怒るの」
そんな、まるでヤキモチ妬いてるみたいな怒り方、勘違いするからやめてほしい…
だって陣平くんは、未来でもわたしに一度も好きと言ってくれなかった。
言ってくれないまま、死んじゃうくせに。
泣きそうになって俯くわたしを見た陣平くんは、ハァッ…とため息をついて、信号待ちの時にわたしの髪をくしゃ…と撫でた。
「ムカつくんだよ」
「え?」
「…お前が、他の男に触られたのがムカつく」
「…どうして?」
「え?」
「何でムカつくの?」
まるで誘導尋問みたいに、陣平くんに尋ねた。
陣平くんは少し迷ったあと、こう言った。
「…わっかんねぇ。
けど、面白くねーんだよ…」
そう言って拗ねる陣平くんが何だか愛しくて、わたしは思わず笑ってしまう。
「ふ…」
「笑うな」
「だって、子供みたい」
やっぱり、昔と違う。
陣平くんが、ほんの少し、ほんの少しだけわたしに好意を寄せてくれているような気がして、ますます未来を変えていると自覚する。
このままお兄ちゃんが助かって、陣平くんがわたしのことを好きだと言って、そして陣平くんも助けられる。
そんな未来が描ける気がして、わたしは車を転がす陣平くんをじっと見つめてた。
お兄ちゃんが助かったら、好きって告白しよう。
奇跡を、叶えるためにわたしは過去に来たんだから。