第8章 叶わぬ願いと叶った想い
タイムスリップしたと言うことは、26歳の知識のまま19歳をやるわけで、さぞかし大学はイージーモードかと思いきや、そんなに甘くはなかった。
「…こんなに難しかったっけ?!」
久しぶりに参考書を開いて勉強すると、ちゃんと難しく、これは真面目にやらないとわたしが医者になる未来も無くなってしまうな…
そう思いながら、大学の図書館で勉強するのが日課になった。
11月7日まであと6日。
今は何事もなく普通の日常が流れている。
このまま、お兄ちゃんを助けることができたら、きっと陣平くんも助けられるはず。
わたしの胸は期待でいっぱいだ。
つい、勉強しながらもお兄ちゃんと陣平くんのことを思い出してしまう。
「あ、ここにいた。萩原さん」
図書館で勉強していると、突然声をかけられたわたしは、睨んでいた参考書から目を離して、そちらを見た。
「新出くん!」
彼は新出智明。
同じ医学部のゼミ生だ。
そして、まさか7年後わたしに結婚を絶対に付き合って欲しいと告白する張本人。
「教授が、このレポート、もっと詳しく書いてきてくれって。
驚いてたよ。こんな症例どこから見つけてきたんだって」
そう言って渡されたのは、今朝教授に提出したレポート。
未来のわたしが治したことのある患者さんについてそのまま書いたら、学生が書く内容とギャップが生まれたらしい。
過去に戻るって、結構色々難しい。
知ってないふりをしないといけないと思いきや、サボると未来が変わりそうという焦燥感に駆られる。
「ありがと。わざわざ持ってきてくれたんだ。
…今日はもう遅いし、帰って追記してまた明日出すよ」
そう言って出していた筆記用具を片付けて席を立つと、新出くんも同じようにカバンを持った。
「正門まで一緒に行こう。」