第7章 時を駆ける想い
陣平くんが家に帰り、部屋の中はわたしとお兄ちゃん2人になった。
お風呂に入り、寝る準備をしてお兄ちゃんとダブルベッドで寝転がると、あの日をふと思い出す。
最後に眠った夜。
今日また、最後になるの…?
兄の顔を見ながら不安に駆られていると、兄は静かに笑いながら言う。
「こんな風にお前と一緒のベッドで眠るの、いつぶりだろうな」
7年ぶりだよ…お兄ちゃん…
そう思いながらも胸に秘め、わたしは笑って兄を見た。
「幼稚園以来かな」
「もうそんなになるか…
ミコトも、もう大学生だもんな。
しかも、東都大医学部。
にいちゃん、鼻が高いよ」
「医者は…万能じゃないんだよ」
医学がどれだけ発達しても、医者がどれだけ尽力しても、救えない命はある。
そして、死んだ人を生き返らせることはどうしてもできない。
医者になって学んだのは、人は無力だということ。
そんな風に力無く笑うと、お兄ちゃんのいつに無く真剣な瞳と目が合う。
「陣平ちゃんとミコトが一緒にいるのを久しぶりに見たな。
…やっぱり、俺、お前らが仲良く笑ってるの見るの、好きだわ」
「お兄ちゃん…」
「諦めんなよ。陣平ちゃんのこと。
医学部に合格できるほど努力したお前なら、1番欲しいもの手に入れられるはずだ。」
そう言いながら、お兄ちゃんはわたしの髪を撫でた。
わたしの一番欲しいものは、お兄ちゃんと陣平くんが生きる未来だ。
わたしはお兄ちゃんの手をとって言った。
「必ず、叶えてみせるよ…」
わたしが過去にタイムスリップしてきたのは、きっとお兄ちゃんと陣平くんを救うためだ。
未来を、歴史を変えるためにわたしはやってきた。
このままずっと、元の時空には帰れないかもしれない。
神様はわたしに、やり直すチャンスをくれたんだ。
今度こそ、繋いだ手を絶対離さない。
「お兄ちゃんは、わたしにとって世界で一番自慢のお兄ちゃんだよ」