第2章 初恋のはなし
「あれ?ミコト。ただいま」
その男の子の後ろからひょこっと顔を出したお兄ちゃん。
お兄ちゃんの顔を見ると途端に我に返り、プリンの恨みなんてすっかり忘れて、わたしは逃げるようにリビングへと走った。
「待てよ!妹」
背中越しに呼び止められ、わたしは真っ赤になった顔のまま、恐る恐る後ろを向いた。
「俺、松田陣平。萩のダチ。
妹の名前は?」
「…ミコト」
「ミコトね。ヨロシクな!」
そして彼は、また屈託のない笑顔をわたしに向けた。
松田陣平
その名前は、わたしにとって一生忘れられない名前になった。
その日、夜眠る時に繰り返しベッドで彼の名前を思い出してはきゅーんと胸が高鳴る。
その繰り返しだった。
次は、いつ会えるかな…
お兄ちゃんの友達の、陣平くん。
彼の笑顔を思い浮かべながら、次に家に遊びにくる日を指折り数えてゆっくりと目を閉じた。