第2章 アイツは、あぁ見えて甘えん坊 ( 隠の後藤 )
〜 後藤 視点 〜
俺がまだ10歳の頃、最終選別でアイツと出会った。
その当時いた、鬼の殆どを一人で殺してきたらしく、
瑞雲柄の羽織を着ていたアイツは、その青色が無くなったように赤黒い返り血を浴びていた。
月夜に光る金色の瞳は、鋭く消えていく鬼を睨み付けては、ふっと白い息を吐き俺の方へとくるっと向きを変えてしゃがみ込んで来た。
「 大丈夫か?あー、怪我をしてるな。少し遅れてすまなかった 」
「 え…いや… 」
自分の方が相当切り傷だらけなのに、俺がちょっと怪我した程度を心配するのか…。
余りの御人好し加減に驚くが、それより印象的なのは頭上に生えてある獣の耳。
「 お、オマエそれ……。犬の耳か? 」
懐から塗り薬を出すコイツを余所に、思った事を問えばその耳はピクリと動き、軽く笑った。
「 俺は狼さ。犬みたいに可愛くない 」
「 狼… 」
ニホンオオカミってやつだろうか…
それでも、何故獣の耳を生やしてるのかは分からないが、こいつは俺の手を取り塗り薬を濡れば、布を取り出し、それを犬歯のある牙で切り裂き、巻きつけてくる。
「 この薬、俺のとうさ…いや、師匠がくれたものでな。すぐに良くなる 」
「 いや…、自分に使えよ 」
「 俺は人外だから、直ぐに治る。まぁ…満月が出てる方が早く治るだが…生憎、日付が違うからなぁ。残念 」
確かに、満月になるには20日以上経過しなければならない。
だが、満月の日に治るってなんだよ…。
人外って鬼とは違うのか…って、色んな感情があれば、コイツはゆっくり立ち上がる。
「 さっき、臭い鬼がいたんだよな…。彼奴を倒していねぇと… 」
「 なぁ、オマエ…名前はなんて言うんだ!俺は後藤! 」
「 俺は多神。おおがみでも、オオカミくんでもいいぜ?ワンッ 」
「 いや、それは犬だろう… 」
「 ははっ。そうだなー。俺も実際、狼を見たこと無いし分からないんだよなぁ 」
返事の仕方はどうだろう?と此の状況ですら悩んでる様子に唖然となるが、コイツは剣に手を掛け現れた鬼へとゆっくりと近づく。
「 まぁ、俺は…人間ではないのは間違いない…。水の呼吸…参ノ型 流流舞 」
流れる水と共に、身体を流れるように動かし3体居た鬼を倒した様子を見て、
あぁ…俺とは次元が違うんだなって思った。