第10章 主人公登場

ハッキリ言って忘れていた。主人公のことを。そして、シナリオ通りに遅れて入学してきた男爵家に養女として迎え入れられた元平民。

定番だけど、当主が外で産ませた娘である。亜麻色の長い髪に、碧眼の主人公はシナリオ通りに王子と出会った。

同じクラスに入学してきたのもシナリオ通りだ。天真爛漫で物怖じせず、王子に懐いている。

懐いている部分だけは、他の貴族の令嬢たちから妬みを持たれてしまうのだけど。きっと、王子が庇うのだろうな。ま、勝手に仲良くやって欲しい。私には関係ない。

私にはシェラザード様がいるし、あんな厭味ったらしくてストーカーかもしれない王子なんて要らない。是非、主人公と懇意にして欲しい。

そして、今は休み時間。私はその時間は基本は読書だ。会話する友達がいないから、時間潰しは決まって読書。それに、読書している時は本の世界に浸ることが出来る。

だから、ひっそりと座席で読んでいたのだけど・・・突然、声を掛けられて、私は顔を上げた。

「シェラザード様。ご機嫌よう。如何されました？」
「隣りに座っていいか？」
「はい。」

荷物を避けては、スペースを作った。

「朝言うのを忘れていた。今日、侯爵家にお邪魔してもいいか？」

それは、ウチにシェラザード様が遊びに来ると言うこと？放課後にこうして会うのは初めてだ。

「も、勿論。嬉しいです。」
「そうか。それは良かった。次は我が公爵家に招待しよう。父上もアメリアに会いたがっている。」

それは、敷居が高いです・・・。

「それと、フランたちから糸が用意出来たと聞いた。サザライト家の屋敷に届けるように頼んである。」
「ありがとうございます。」
「私も私の為の刺繍、楽しみにしている。では、また昼に迎えに来る。」

私の頭を撫でては、教室から出て行った。あ～、腕が鳴る。頑張って刺繍しなくちゃ。

糸のこと、放課後のデートのことで浮かれていたんだと思う。お昼休みになった時、私に声を掛けて来たのは主人公ことマリア=ジェノバ本人だった。

「あの・・・一緒に、お昼しませんか？」
「はい？」

初めて話した内容がお昼のお誘い？何故、私を誘うの。いつも、あの王子らと同伴しているのに。そして、王子もこっちを見て驚いた顔をしているし。

「マリア、その女は・・・。」
「ロイド様、女性にそのような言い方は止めて下さい。可哀想です。」