第10章 エーデルワイス
side夢主
兄との電話から数週間が経ち、今日は待ちに待った日。お兄ちゃんが帰ってくる!何度が帰ってきているらしいけれど、私が寝ている時間にお風呂に入るためとか荷物取りに来るためとか、それだけのために帰ってきてはすぐにまた仕事へ戻っているんだって。起こしてくれてもいいのにな。
ガチャ
帰ってきた!
「ただいまー」
『お兄ちゃん!おかえり!』
玄関まで走っていって思い切り抱きついた。
「東堂ただいま。いい子にしてたか?
瀬川にワガママばっか言って困らせてないか?」
『いい子にしてた!お兄ちゃんおかえり!』
私の頭を撫でながら微笑む兄。
私の唯一の家族。
一回り離れているしすごく頼りにしている。背が高くてサラサラの黒髪で小さな顔にぱっちり二重と長いまつ毛。妹の私でも見惚れるほどにかっこいい。自慢のお兄ちゃんだ。
「今日は久しぶりに兄ちゃんと外食でもいくか?」
『わーいいね!いく!』
「よし、そしたら着替えておいで
これ着てくるんだよ」
兄から綺麗な水色のドレスワンピースを渡された。ウチのブランドの新作…。心臓がドクドクする。苦しい。
『どこにいくの?』
「東堂が去年から行きたがってたとこ。」
『ほんと!?』
去年六本木にオープンしたコース料理のお店。和食もフランス料理も中華もある。それにスイーツがとっても美味しいらしい。オープンから1年は一般向けではなく、VIPといわれる枠の人達に向けてだけ。それでも予約が取りずらかった。あと数ヶ月で一般向けにもオープンするからもっと予約が取れなくなるなーと思っていた。だけどさすがお兄ちゃん…!
父を継いだ私の兄は今やCHANELやDior、CELINEと並ぶハイブランドの社長だ。女の子が憧れる華やかなドレスも靴も素敵なカバンだってなんだって生まれた時から周りにあった。当たり前だった。私の家が恵まれていることは分かっていた。だけど両親がいなくなってからわたしは1度も自分の家のブランド品に袖を通していない。色んな思い出がブワッと全身を包みそうで怖いから。忘れたいわけじゃないけど、思い出してしまえばまた立ち止まってしまいそうだから。