第4章 終焉の時
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5月の後半に差し掛かってから
君の容体は目に見えて悪化していた
元々華奢だった体はさらに痩せて、息をするのも苦しそうだった
それなのに君は、相変わらず冗談ばかりを言って、明るく振る舞っていた
僕はそんな君の様子にすっかり油断して
君の体を蝕んでいる病魔が、君を確実に死へと追いやって居ることなど
考えも及ばなかった
いや、違う
……考えようと、しなかったんだ……
「智子、調子はどう?」
「良いわけないじゃない、病人なんだから」
病室にやって来た僕に
青い顔をして、強気な笑顔を作る君
……胸が、痛い
「そりゃそうだな」
「でしょ?見てよこの腕!犬が見たら間違いなく歯磨き用の骨だと思って噛み付くわよ!」
「 あははは、それは言いすぎだろ(笑)」
……解ってる
「そっかなぁ?骨皮筋子って感じじゃない?」
「なんだ、それ?」
「あたしの昔のあだ名!」
「マジっすか(笑)」
「マジっすよ(笑)」
……君は、無理をしている
「はぁ……あ〜……病人は、笑うと……体力を、消耗するわ」
「大丈夫?」
「だから、大丈夫じゃないって、ば(笑)」
……無理に、笑ってる
“大丈夫じゃない”
それは、冗談のようでそれはきっと
君の、本音
言葉の合間に漏れる吐息が
「もう、限界だ」
って、言っているようだった
だけど、僕はそれを
冗談だと、思っていた
…冗談だと、思いたかった
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