第3章 彼女の真実
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降り出した雨は、益々勢いを増して
梅雨には相応しくない騒音を響かせて、窓ガラスを打ち付けていた
お陰で僕の情けない嗚咽は、その音に掻き消されて
マスターの耳には届いて居ないようだった
僕は涙を拭って、残っていたコーヒーを飲み干すと、マスターを呼んだ
「……すいません、お代わり頂いても良いですか」
「あぁ、またエスプレッソで良いかい?」
「はい」
僕はエスプレッソを淹れるマスターをぼぅっとして眺めながら
ボンヤリと智子はコーヒーが苦手だった事を思い出していた
「そんな焦げた液体の、何処が美味しいの?」
購買で買ってきたパンをかじる僕の右手に握られていた、ブラックの缶コーヒーを見て
彼女が不思議そうに首を傾げた
「焦げた液体…(苦笑)」
強ち違うとも言えないけど、とか思っていたら、彼女が言った
「ね、美味しいの?」
「うん、普通に」
「ふぅ〜ん…」
「味見してみる?」
僕が缶コーヒーを差し出すと、彼女は大袈裟に嫌そうな顔をした
「やだぁ!口付けたの、ばっちぃ!」
「……お前な、その口に直で口つけてんだろ、何時も」
「間接的に唾がくっつくのと、キスじゃ、気持ち的なコトが全然ちがうの!」
「何だよそれ(笑)
…じゃあ、直に唾付けてやる!」
「わぁっ!」
僕はベッドに腰掛けていた彼女に飛び付いた
驚いてたじろぐ彼女の小さな顔を捕まえて、チュッと軽くキスをする
「……どうだ、参ったか」
「ふふっ」
彼女は悪戯っぽく笑うと言った
「バカじゃないの、そんなコトされたって嬉しいだけなんですけど(笑)」
「……///」
赤面して黙り込む僕に、彼女が愉しげに訊いた
「…参った?」
「…参りました(苦笑)」
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