第1章 涙雲
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「やぁ、章くん」
「…どうも」
僕は、白い箱を抱えたまま、軽く片腕を上げるお兄さんにお辞儀をした
「悪いね、親族でもないのに残ってもらっちゃって」
「…いえ」
俯きがちに話す僕を見て、お兄さんは済まなそうに笑うと
ポケットから小さな瓶を取り出した
中に、白い欠片が入っている
「智子に頼まれてたんだよ。自分が亡くなったら君に分骨して欲しいって…親父には内緒だけどな(笑)」
「そう、なんですか…」
僕は小指の先ほどの、小さな君の欠片の入った小瓶を受け取った
ほんのりと、暖かい
「……」
「もう一つ渡す物があるんだよ」
お兄さんは片腕に掛けていた紙袋を差し出した
「これも、一緒に渡してくれってさ」
「……」
僕は黙って紙袋を受け取った
見た目よりも、ずしりと重い
「じゃあ、またな」
「…はい」
お兄さんは、君の残骸の入った小箱を大事そうに抱えて、斎場に戻って行った
僕は受け取った小瓶を胸のポケットに仕舞って、バス停に向かって歩き出した
君の入った小瓶は、まるで最後の君の温もりだと言わんばかりに、ほのかな熱を放っている
(……どうせ、後数時間で冷たくなっちゃうんだ)
僕は胸のポケットをギュッと握った
バス停に着いた僕は、時刻表を見た
郊外にあるバス停は、一時間に数本しかバスが止まらないらく
しかも、今し方バスが行ってしまった後らしい
僕は仕方無く、バス停脇のベンチの端っこに腰掛けた
(……そう言えば、あの時も端っこに座ってたっけ)
僕は、初めて君に出逢った日のことを思い出した
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