第3章 彼女の真実
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「なぁ、智子。何でまたねって言っても、何も言わないんだ?」
「…何が?」
「何がって…そこはさ、“うんまたね”とか、“待ってるね”とか、言うんじゃないのか?」
「……」
僕の質問に、彼女は無言で背中を向けた
「……智子?」
「…あたし、嘘つきたくないの」
「へ?…嘘?」
彼女は相変わらず僕に背を向けたまま、続けて言った
「明日あたしが生きてる確証なんか、何処にも無いんだから」
「……え?」
「明日死んじゃうかも知れないのに、“またね”だの、“待ってる”だのって、無責任な事、言えない」
震える君の声が、どんどん小さくなって行く
「…あたしには、もう、明日は来ないかも知れない…だから、そんな事言えない…」
僕はその、震える細く頼りない肩を抱き締めた
「…智子…」
「…………怖いよ」
自分の肩を抱いた僕の腕に顔を埋めて、涙声を震わせながら君が言った
「……章くん、あたし……夜が怖い」
何時も、眠る時に
もう、二度と目覚めないかも知れないって思うの
朝起きると何時も
あぁ、あたし、もう一日生きれるんだって
……思うんだ
途切れ途切れで、掠れた声を絞り出して
君は胸に仕舞って隠していた秘密を打ち明けてくれたね
あの時、僕は
君に何も言ってあげる事が出来なくて
何も、してあげられなくて…
ただ、黙って
君の震えが収まるまで、君を抱き締めている事しか出来なかった
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